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CASE STUDY  |  導入事例インタビュー

「目標を上書きしないと、DXは始まらない」

三菱地所 篠原氏が語る、AI時代のDXの本質

三菱地所 篠原氏 × GenerativeX 荒木

生成AIが登場して三年。多くの企業がAI活用に乗り出してきた一方、議論はBPRや工数削減の積み上げに収束しがちで、本来のトランスフォーメーションには届きにくい。そんな停滞感が、いまもDXの現場には漂っている。

その違和感を、事業部門に深く根を張ってきたDX推進者はどう見るのか。GenerativeX代表の荒木が、三菱地所でDX推進二部の複数チームを率いる篠原氏に、AI時代のDXの本質について聞いた。


現場発の視点でDXを動かす

三菱地所は、東京・丸の内エリアを起点とした総合不動産デベロッパーであり、オフィス、商業、ホテル、空港、住宅と幅広い事業ポートフォリオを擁する。

篠原氏が所属するDX推進二部は、事業部門と直接向き合いトランスフォーメーションを牽引する組織だ。同氏は複数の事業領域を横断的に支援している。

三菱地所株式会社 DX推進二部 篠原 靖直氏

三菱地所株式会社 DX推進二部 篠原 靖直氏

特筆すべきは、篠原氏のキャリアが、最初からDXの専任だったわけではない点だ。事業会社への出向時には現場のアナログ業務をデジタルで再構築する改革を担い、スマートロックを活用した賃貸住宅空室のセルフ内覧サービス等を業界に先駆けて立ち上げた経歴を持つ。「現場で必要に迫られてやっていただけ」と本人は語るが、この現場感覚が、いまの議論の核を形作っている。


DXは、目標を上書きしないと始まらない

DX推進と聞いて、多くの担当者がまず手を付けるのが業務効率化やBPRだろう。だが篠原氏は、その出発点に問いを投げかける。

「BPRそのものを否定するつもりはない。ただ、初手をBPR一本で走り始めるのは、もったいない」

生成AIが何ができるかを現場が理解すれば、効率化は組織が自然に動き始める。あえてDX推進部が旗を振らなくても回るところがある、というのが彼のスタンスだ。

インタビューの様子

ではなぜ多くの企業のDXが、効率化や工数削減で止まってしまうのか。篠原氏は、「目標の置き方が、効率化の延長線上にとどまっていることが多いから」と表現する。

経験則として、変化への危機感が強く共有されている組織ほど、自らDXに踏み込んでくる傾向があるという。「強い危機感を持った人たちは、自ら問いを立てて踏み込んでくる。そこに伴走できる関係が生まれる」。

一方で、現状の延長線上に十分な手応えがある組織では、変える必然性そのものが見えにくくなりがちだ。これは規模・業界を問わず、多くの企業が共通して抱える構造的な課題でもある。だから篠原氏はチームメンバーに、こう繰り返し言うのだという。

「プロジェクションをもっとストレッチして持ってきてほしい。より高い目標を立てれば、いまのやり方では届かない。そこで初めてDXを使う必然性が生まれる」

トランスフォームしなければ、不連続な成長は描けない。逆に言えば、不連続な成長を本気で描こうとすれば、変える必然性は自然に立ち上がる。シンプルだが、説得力のある診断だ。

DX部門の仕事は、効率化メニューの提示や業務効率化のROIの積み上げに閉じない。組織に「変える必然性」を、自ら持ち込みに行くこと。これが篠原氏のDX観の根幹にある。

荒木もこの考え方に強く頷く。「AIなら何でもできる、という空気が業界に漂っている。けれど本当はもっとシンプルで、willのある人がいて、AIで解ける部分が10%でもあれば、それをいかに早く形にできるか。それだけだと思います」。


情報が均質化される時代に、何で価値を出すか

DXのもう一つの核心は、目標と並ぶ「ビジネスの前提を組み替える」ことにある、と篠原氏は語る。

不動産業は伝統的に、情報をどう整理し、お客様に届けるかが価値の中心にあった業界だ。物件情報や相場観をどう扱えるかという専門性が、長くサービスの存在意義の一部を形作ってきた。

しかしその構造は、いま大きく変わりつつある。物件情報はネットで網羅的に検索でき、AIによる査定や情報検索のような機能レイヤーは、急速にコモディティ化が進んでいる。「自分が普段やっているのは、情報の偏りがどこで均されつつあるかを観察すること」と篠原氏は表現する。

株式会社GenerativeX 代表取締役 荒木 れい

株式会社GenerativeX 代表取締役 荒木 れい

では、機能レイヤーが均質化していく先で、何で価値を出すのか。篠原氏は二つの方向性で整理する。「新しい情報の独自性を自分でつくりに行くためにAIを使うのか、それが均された世界で、価値の出しどころをずらしに行くのか。そのどちらかしか答えはない」。

たとえば不動産営業のような対人ビジネスでは、お客様との関係構築こそが価値の源泉になる。「業務効率化に閉じず、人と人の関係性そのものを支える領域にAIを使う」。AIを工数削減のためではなく、人の関係を深めるツールとして位置づけ直す発想だ。

発想のヒントは、社内にいる優れた営業の姿にあったという。対話の多くをお客様との関係構築と、生活や仕事の文脈の理解に充てる。そこで積み重ねた信頼が、意思決定の場面で確かな支えになる。会話の質そのものが成果につながる、その営みを誰もが扱える形にできないか。そんな問いから生まれた取り組みだ。「現場を知っているからこそ思いつけたアイデアだと思う」と篠原氏は語る。

AIが進化するほど、価格査定や情報調査といった機能レイヤーは均質化していく。荒木もこれに頷く。「金融や不動産、無形商材では、機能としての提案レイヤーがどんどん均質化していく。すると最後は、人と人が選び合う世界に戻る」。

DXは、効率化のことではない。情報の偏りが均された世界で、自分たちの価値の置きどころをどこに移すか。そこまで問い直すのが、本来のトランスフォームだ。


機能は均質化する。残るのは、人としての魅力とセルフディスラプト

ビジネスの前提が組み替わるとき、人間に残されるものは何か。

「最後に残る人間の価値って、その人に信頼を寄せられるか、人として魅力を感じられるか、というところなんですよね」

ここで言う「魅力」とは、話が通じるか、人として相性が合うか、信頼を寄せられるか。機能では測れない、その手前の感覚のことだ。

対談の様子

AIが普及するほど、機能としての提案レイヤーは似通っていく。すると最後の選別軸は、自分が信頼を置ける、相性のいい相手に頼みたい、という感情に行き着く。ブランドも、突き詰めれば人と人の積み重ねだ。

その上で、企業も個人も問われるのは「セルフディスラプト」できるかどうかだと篠原氏は説く。既存事業の強みを土台にしながら、自ら次の形を仕込みに行けるかどうか、という意味だ。

「自分が考えてディスラプトできるかも、と思ったものは、放っておけば誰かがディスラプトする。だったら先に自分でやった方が絶対チャンスはある」

AIとうまく付き合うとは、結局のところ、AIに任せられるものは全部任せ、残った領域で自分の差別化と利益の源泉を置き直すこと。それが彼の答えだ。

「思いを疑って、頭を柔らかくしてAIと向き合う。ただし、それを支えるアップサイドが組織側にあるかどうかも問われる」と荒木も応じる。


やりたい人を発掘し、走れるパートナーと組む

ここまでの議論を踏まえると、DX推進部の役割は、従来とは違って見えてくる。

「やりたいけれど、やり方がわからない人を、社内で発掘する」

篠原氏のチームは、その一点に時間のほぼすべてを使う。一人ひとりのwillとペインに伴走するアプローチを徹底する、というスタンスだ。

新人の育成も独特だ。DX部門に配属された若手には、自分の担当事業のKPIツリーを描いてもらい、それをどうリフトするかを自分で考える時間をしっかり取る。提案で終わらせず、現場と一緒に実行まで担うところを担当範囲としている。現場の解像度と、PLに向き合う視座。この二つが揃って初めて、AI時代のDX人材として動ける、というのが彼の見立てだ。

外部パートナー選びにも、同じ視点が貫かれる。GenerativeXとの協業について篠原氏は、「機能要件を伝えると数日後に実際に動くアプリが返ってくる。スピード感のある協業ができた経験」と振り返る。


おわりに

対談の終盤、荒木は篠原氏に問いかけた。「AIと、これからどう距離を取って付き合っていけばよいか」。

「AIでできるものは全部AIにやらせればいい。その残ったところで、自分はどこで差別化するか、どこに利益の源泉を置き直すかを考えるべき」

「デジタルは便利な文房具」だと篠原氏は言う。書く中身を決めるのは、あくまで組織であり、人間だ。

目標を上書きする。ビジネスの前提を組み替える。人としての魅力を磨く。セルフディスラプトする。

長く確立されてきた企業や事業も、例外ではない。生成AIという台風の真ん中で、誰が、何を書き直していくのか。その問いは、いまDXに向き合うすべての組織と人に開かれている。


Profile

篠原 靖直氏

三菱地所株式会社 DX推進二部

事業部門と向き合うDX推進二部で複数のチームを率いる。事業会社出向時には現場業務のデジタル再構築や、スマートロックを活用した賃貸住宅空室のセルフ内覧サービス等を立ち上げるなど、現場発の事業変革を数多く手がける。

ビジネスと技術の両面から、生成AIを活用した事業成長にコミットします。

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